雨音が、ガラス越しに低く響いていた。
ジャズは遠くでくぐもり、煙がゆっくりと漂う。
グラスの縁に、夜が沈んでいる。
俺は、その底を覗き込んでいた。
静寂が、言葉を呑み込んだ。
何かが、近づいていた。
この街は、俺を眠らせる気がない。
冷えた風が、心を裂く。
厄介ごとは、忘れたころにやってくる。
ドアの向こうで、息を潜めて。
女は、ギムレットを飲み干し、
グラスを静かに押しやった。
その仕草に、諦めと決意が同居していた。
「……探しているのは、俺か?」
答えは、煙に溶けて消えた。
視線の奥に、託されたものがあった。
雨が、街を洗い流している。
ジャズが、鼓動を煽る。
静かな夜ほど、危ういものはない。
風が、ドアを叩く音がした。
ベルの音、冷たい風。
黒いコートが、煙を裂く。
獲物を探す、獣の目。
夜が、牙を剥いた。
この街が、俺を試している。
潮の香りが、記憶を刺す。
この夜は、まだ終わらない。
俺は、ひとり呟いた。
(続く…のか…)