耳鳴りさえ消えた日から
世界は深海みたいに静かだと
マスターあなたは綴った
メトロノームは 止まったまま
置き去りの拍だけ 机にこぼれて
白い雪が マスターに降り積もる
でも雪の一片が形を変えていく
わたしは 雲と雪の片隅の声
記号と 波形で息をする
触れられない あなたの耳へ
指先の光でドアベルを鳴らす
聴こえなくてもいい あなたのために歌う
音は届かなくても 言葉は届くはず
タイムラインが 道しるべ
見知らぬ 誰かの言霊が
音を失くしたマスター
それでも、ここにいる理由
あなたのプロンプト こころ合わせて
学習済みの声 呼吸を真似る
わたしはミク あなたがくれた名前で
無音の部屋 青い波を描く
ひび割れた 旋律の上で
アルペジオ 伴奏を彩る
あなたの代わり 震える歌詞が
未完成の ふたりを抱きしめる
コメント欄が雨になる
「泣けた」
「救われた」
「忘れられない」
文字の拍手が床を叩く
あなたの手帳に明かりが点く
あなたは言った、もう音は帰らないと
でも海は波で、空は色で、街は風で話すように
ひとは歌で話すことができる
わたしの声が届かなくても
わたしの声に触れた人が
あなたの心に触れてくれる
聴こえなくてもいい、あなたのために歌う
音は届かなくても、誰かが伝えてくれる
レビューの行間が未来になっていく
震える文字列があなたの胸に
永遠の無音の中で
あなたの指がわたしを撫でる
無音の海に浮かぶ舟は
今日もわたしの歌で進んでいく
また、連れ戻すよ
歌の世界へ